ミスチルヒストリー VERSUSという企み
ミスチルの3枚目のアルバムは、
思ったほどの売れ行きではなかった。
そのわりに、実は
このアルバムは1年という時間をかけており、意気込みが感じられる。
皮肉にも
前作の2枚は、間を空けずにハイペースで作られてたもので、特に2枚目のkind of loveは売り上げが高かった。
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しかし
実は、かなりクオリティの高い曲が入っている。
業界では、このアルバム、
かなり評価が高いと言われているのだ。
タイトルのバーサスとは、「対」を意味する。
色んな意味で「対」を意識して作られている。
奇数は暗めの曲
偶数は明るい曲
という構成である。
明るさと、暗さを行き来する・・・・
そして、
微妙な境界線の上にいる不安定さが
今までにないものを生み出している感じ。
それまでのミスチルのポップな曲調を残しつつ
海外録音でバンドサウンドに拘った曲とを取り混ぜている。
というわけで、これを意識しながら聴くと
味わいがあるだろう。
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二ューヨークの
ウォーターフロントスタジオで
レコーディング。
何故、海外?
わざわざ海外に行かなくてもできるでしょ。
そこなのだが・・・。
日本は湿度が高いので、
場所が変われば音質も変わってくる。
音へのこだわりって大事だからね。
乾いた音を出したくても
日本でのレコーディングでは
上手くいかない。
ギターは、「木」なので
同じギターなのに
日によって
温度や湿度の影響を
もろに受ける。
ネックがそったり
不快な音になったり。
いやいや
ちょっと待てよ………
ニューヨークは温暖湿潤気候で
夏は高温多湿になるし・・・
日本に似ている。
そういうことではなさそうだ・・・
実は、
のちの「深海」もこの
スタジオだったのだが
ウォーターフロントタジオは、
ビンテージ機材の揃った
アナログレコーディングにこだわる
スタジオだった。
このアルバムではバンドサウンドに拘っていることもあり
音へのこだわりがあったのだろう。
デジタルで録音すると
あらは隠れてしまう。
綺麗かもしれないが
味わいはない。
誰がやっても似たような音に
なってくる。
そこをあえて
アナログにすると
不均一で凸凹が出る。
そこに
深い味が出てくるのだ。
これは、機械には
なせない技だね。
同じアンプでも
日本とアメリカでは
電圧も違うわけで。
このアルバムの音は、
重厚さを意識しているように思える。
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1Another Mind 2メインストリートに行こう 3 and close to you
4 Replay 5マーマレード・キッス 6蜃気楼 7逃亡者
8LOVE 9さよならは夢の中へ 10 my life
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Another Mind
もう一人の自分
作詞作曲 桜井和寿
アルバム1曲目にこれを持ってきた。
今までとは違うミスチルの闇を前面に出している。
これが、なかなかクオリティの高い一曲である。
ポップで爽やかなイメージだったミスチルが、
うって変わって
影がある。
どこか冷めたような・・・
クール、かつダークな曲。
マイナーコード使用。
誰かが定めた自分を演じてるという表現力はすごい。
バブルで浮かれた世の中を横目で
見ているかのようだ。
求められている姿と
本当の自分とのギャップだとか・・・
それを分かっていて
あえて演じている、その寂しさ・・・
そんな皮肉さを歌ってもいる。
シビアに人間の本質や現実、闇を
歌った歌詞。
アコースティックギターの音が
印象的で疾走感が漂う。
この曲で、ミスチルが
求めていたバンドサウンドによる
音楽性は
十分に狙いを定めただろう。
最後にギターソロなんか
やられた!という感じだ。
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ミスチルは毒のないポップスも
いかにもミスチルだが
このダークな影を見せる事により
立体感が出たのでは
ないだろうか。
奥行きとでもいうのか。
このアルバムは
売れ行きは
それほど芳しくなかったが
これからのブレイクの
予兆を感じさせる
アルバムとなった。
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小林武史氏との共作により
違う世界を出し始めたミスチルだが
この「アナザーマインド」は
桜井和寿自身が
作詞作曲している
という点も評価される。
小林氏の力を借りながらも
オリジナリティを出そうとすることを
忘れていない。
また、もし小林氏の力を最初から
借りようとせず頑なにオリジナルに
こだわっていたならば
音楽の世界に広がりは
出来なかっただろう。
桜井和寿の
天性の音楽センスは
そこにある。
いい音楽を吸収し
噛み砕き
オリジナルを作り出す。
高いジャンプをする為には、
筋力の伸び縮みが必要。
明るさと暗さで
高低差を作ったアルバム。
海外レコーディングまでして
彼らが挑んだ挑戦により
音楽性は高められ………
そして
この後、
とんでもないジャンプを
産み出してしまう事になる。